2017-11

三本足 五本足

喫煙所で休憩中の清掃担当の小父さんが、こう呟いた。
「俺、この間初めて、象を見たんだよ。びっくりしたなあ、足が五本あるのかと思った」

直前までDVDのコピーガードの話などしていたと思ったのだが、さてどうゆう脈略で象に移ったのか。
七十近い風貌で、逆に物心ついてから動物園など行こうとも思わなかったのかとも想像できるけど、いまさら象に感嘆することに首をかしげた。
絹子はその瞬間、曇り空の彼方に、「三本足」と「五本足」を見つけた。
獣のそれとは異なり、ヒトガタから突き出る、横一列の三本と五本の足を見つめた。

奇数は吉兆、偶数は凶兆という観念が染み込んではいるけれど、均衡と対称の観点からは偶数が望まれる。
特別な数字である1は、むしろ0に近しく、対称の中点をなす、あるいは排他と存在の始まりとして、単なる奇数とは隔絶されている。
SFでも怪奇でもありうるけど、三本足と五本足は純愛でなければならない気がする。

三本足に出会った五本足は、自分を二つに分けて、三本足と二本足になった。
三本足は世界に二人きりだから、このまま一緒にならなくちゃと言う。
捨てられた二本足は、みんなのところに行けばなんとかなるだろうと放り出されるのだ。
でも、外見が同じになったからといって、3/5切り取られた心はどうなる。
未知の重心と曖昧な均衡のまま、群集に投げ込まれて、どうなる。
きっと怪物は偶数の中にも潜んでいるというのに。
普遍と安定の中にこそ潜んでいるというのに。

他愛のない断片が、最近僕の中でちりぢり浮かんでは、何処ともなく逃げてゆく。
素氏の草稿の裏側に印刷された、数ヶ月前に僕が記したはずの文章を、校正の合間に斜め読みする。
これは、本当に僕だったのだろうかと。
文章の一つ一つは宙を舞いながら、唯一僕はいつの時代でも、観念ばっかりだなあと目を閉じる。
少しでも多くの白日夢を見られるように。

――1人ぼっちだからって、死を望むのは、短絡過ぎる。
死を望むのは、ただいてもたってもいられない渇望からだ。
少なくとも、僕はずっとそう。
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