2017-06

ちょっと沈んでみる

誠実な詐欺師 (トーベ・ヤンソンコレクション)誠実な詐欺師 (トーベ・ヤンソンコレクション)
(1995/12)
トーベ ヤンソン、Tove Jansson 他

商品詳細を見る


自分は意地悪である。
自分は計算高く狡猾である。
いじけるためではなく、これが確かな鎧となり、女の子はまっすぐに立っていられた。
嫌われ煙たがられ距離をおかれていることが自信であり、安堵だった。
これはそういう女の子の話。
本当は女の子というにはもう少し年齢は高いけれど、実質的には女の子の物語。

女の子の計算は別段難しくはない。
どんな複雑な数式だって「計算」さえすれば解けるのだから。
敵はいつも人間だ。
女の子が罠にかけようとした相手は、まさしく人間だった。
まるっきり社会においては典型的な。
やさしそうな絵描きのおばさん。
思い出にひたって、お金があるから世間の汚れをみんな拒んで、ウサギを描き続ける。

もしこの話が、詐欺師の痛快華麗な冒険だったら、どうということはなかった。
もしこの話が、そんな殻を破ってしまいなさいと女の子を包んでしまうような腐った砂糖菓子だったら、どうということもなかった。

女の子は唯一信頼に値する弟にボートを買ってやるため、外の世界と触れ合わなくてはならなかった。
計算に計算を重ね、絵描きのおばさんを追い込み、念願の収入の道を見つけたけれど。
初めて嘘をついた(嘘などつかなくても詐欺は成立するねたしかに)。
黒と白の境界線を初めて曖昧にしてしまった。
そうしたら、何もできない、ただうろたえるだけのおばさんは、無意識のうちに女の子に仕返しをしていたのだ。
ひどい仕打ち。
大事な犬を、服従するだけでよかった単純な犬を、複雑な犬に変えてしまった。

北欧の閉塞感。
なにも、希望もなにもないのに、私はとても穏やかになる。
ああ世界と触れることはこんなに恐ろしいと、
こんなに言葉にできない恐れを知っている人がいるんだと。

このお話で一番好きなところは、凍りついた湖にものを棄てに行くという風習。
春が来たら、箪笥みたいな大きなものも、どぶんと沈んでくれるんだって。

箪笥の引き出しに入って、夜になったら、少しだけ隙間を開けて空を見上げる。
白夜に苛立って、闇が恋しくなるのもいいだろう。
オーロラも見えるのかな。
そして長い間、待つともなく待ち続けて、閉じこもった人も、隣の行李に詰められた手紙の束も、後家さんになってしまった真っ赤なブーツも。
みんな湖の底に沈む、イメージ。
底に向かったら向かったで、生物の少ない冷たい水底を回遊するのもいいなあ。
なんて幸せな写像。


※訳者によれば筑摩文庫版の新訳の方がいいらしいのですが
私が読んだのも文庫版なのですが
表紙画像がなかったので、こっちから。
スポンサーサイト

● COMMENT ●


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

http://quinutax.blog35.fc2.com/tb.php/73-49db2deb
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

雨の大阪尼崎 «  | BLOG TOP |  » こんな幻もいいな

プロフィール

絹山絹子

Author:絹山絹子
狸穴幼稚園の図書委員

kochairo@hotmail.com
Twitter account:@quinutax

最近の記事

FC2カウンター

カテゴリー

リンク

このブログをリンクに追加する

ブログ内検索

月別アーカイブ