2017-03

もしもし教授

浦川教授のゼミ生は、桜が散る頃毎年恒例、
言問の期間に没入する。
教材やテーマを貰う前に、
冬眠前に頬張る苦い丸薬のように
『君の意味を私に教えて』と問われ続けるからである。
生きている意味なのか、と返せば、
そうではないと返される。
あるいは二人称自体の存在価値かと、返せば、
これまたそうではないと返される。
この破綻した不十分な問いに
年間二人が犠牲となり、卒業を放棄。
今年の五月、
意味は教えたくないですと
落雁を撒き散らして一人の学生が出て行った。
もう一人の彼は
ここを根城とでも考えたか
連ねた椅子に薄いマットレスを敷いて体を横たえる。

窓、重いカーテンの隙間に垣間見る桟の数、一枚だけ曇りガラスの嵌った不均衡。

浦川教授は頬杖をついて、紙の束に集中し、
無防備になった学生は身体から約束されていたはずの時間が、
ぬるぬる床に零れてゆくに任せて目を閉じる。

ここに、
何もない。
ここにも
何もない。
ここすら
何もない。
ここから、、、

声にしたつもりはないのに、
丸く汚れた教授の眼鏡の奥で
眼球が一回転、したようだ。
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絹山絹子

Author:絹山絹子
狸穴幼稚園の図書委員

kochairo@hotmail.com
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