2017-09

戦闘的

土曜日に玉川学園敷地内の博物館にイコン展をみにいきました。
小田急の線路をまたぐ広大な敷地に幼稚部から大学まで、
その広さと自然環境のよさに惧れをなしながら見学。
ロシア正教のイコンは中世の匂いを強くとどめつつ、
素朴な表情と顔の黒さと金の眩しさと細かなキリルの書き込みに見入る。

元々教会学校に通っていた僕ですが、受洗していないので
恐らく黒死館の作業をすることがなければ、ことほどこの分野に近寄ることはなかったはず。
現代に近い基督教よりも、より混沌としていた時代の方が強く惹かれるので
民衆や土着の息吹の感じられる東方ものの方が、
妙なリアリズムのある油彩画より迫るものを感じます。
ユーゴスラビアの修道院で一日の大半をイコンを描くことに費やす修道女の姿がビデオで流されていましたが、画題は常に個性を無にした、伝統的なものに限られていました。
それをみて、ああ、これって写経の世界に近いのではと思ったのです。
巧稚よりも私心を無にしてのめりこむ時間が、優先されるという。

以前「黒死館逍遥」で取り上げた、聖バルバラの物語。
基督教を否定する父によって塔に幽閉された娘バルバラが信仰にめざめ、激昂した父に幾度も拷問され奇跡をおこしつつも、終に殉教するお話。
その物語が、巨大なイコンの中で二十数枚に細かく場面を変えて描かれていて、おお!と立ち止まる。
やはり自分の知る物語が緻密に描かれていると、目が離せなくなります。
今回は後期しかいけなかったので、次回の公開を楽しみにしています。

ちなみにコレクションの一部はウェブ公開されています。→こちら

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以前から「戦闘的同性愛者」という標榜を耳にしていた
ドミニク・フェルナンデスの本を初めて読んでみました。


除け者の栄光 (新潮・現代世界の文学)除け者の栄光 (新潮・現代世界の文学)
(1989/04)
ドミニック・フェルナンデス

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1983年に小説JUNEが創刊されて、僕も当然ながら
BL的なるものの旋風に巻き込まれ
その後映画「モーリス」の嵐が吹き荒れたあの頃。
BLのバリエーションが広がる前の初期JUNEに慣れ親しんだ身には、
同性愛者が必ず通るであろう罪悪感や近親者との軋轢という問題は、
ないがしろには出来ないまでも、ある種のステレオタイプであると感じてしまう悪癖があり、
本書の前半も、1989という発行年をみると、やや「戦闘的?」と首をかしげたのですが。

いやいや、カップルの20歳年上の方、作家ベルナールがエイズを扱った戯曲を書こうと決心する辺りから、話は急激に変化を遂げます。
カップルの年齢差の意味するところは、同性愛者に「ゲイ」という名の一種の市民権が与えられる前後に思春期の通過儀礼を受けていること。
原罪の意識が本当に解放されたのか不明のまま、くびきを外せぬ者と、最初からそういう意識の薄弱なものの差。
ベルナールはエイズをテーマにするなんてもってのほかだという友人に連れられて、末期のエイズ病棟の見学に付き合わされる。
そこで、最後にみた患者はかつて自分と関係のもったことのある、歌手であった。

物語は時間の流れを加速し、ベルナール自身がHIV陽性だけではなくウイルスが発症したと読者に知らせます。
ここからが特に素晴らしかった。
決して、入院し対処療法に頼ろうとしない彼と、自宅で看病するマルク。
そして、感染が性交渉ではなく、輸血によるものだったという事実を知ったマルクが、ベルナールの意思を暗に受け取って、決して最後までそのことを知らせることがなく終わるという流れ。

もしかしたら、少数派の意見かもしれませんが。
ある種の人間は身体的、精神的、あるいは信条的に、いわゆる「欠陥」と認知されるものを負ったとき、それを引け目と感じつつ、また「欠陥」によって惹起される他者からの攻撃を不快に感じつつも、どこかその事実に陶酔や、選民意識や、あるいは罰せられる喜びを感じてしまうものではないのか、と僕は思っています。
勿論、その昏い思考回路は、特に公言すればするほど、余計に反感を買うものであるとは了解しますが、僕自身がそういう具合なので、ないことにはできないはずの回路です。

ベルナールが同性愛者であることを公言できる時代になっても、決して捨て切れなかった影を、もう一度、エイズ発症によって黒く染め上げることができるという、その逆説的(世間的には不道徳であり、不謹慎な)回路を、若いマルクが総て受け止めるところに、この物語の「攻撃性」は如何なく発揮されていると思います。
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Author:絹山絹子
狸穴幼稚園の図書委員

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