2017-07

宿阿

宿阿と云う言葉には、非常な禍々しさがあって
まるで指の先から黒く腐り落ちていくようなイメージがある。

同時に外界からの眼に見えぬ侵入というよりも
己、内部に巣食う原罪の響きも感じる。

僕の右手は、一年来何者か不明なものが棲みついていて
発疹と水疱と決壊と乾燥とを繰り返している。
水疱は嗤うかのようだ。
かゆみが拡がるにつれ、もっと欲しいと膨れ上がり、
僕は自制を失って、全て壊すまで血を噴くまでかきむしる。

その血が、
菫色の美しいジュリアンの布装や小口に
沁み込んでしまったことにも気づかずに。

深更、その事実に気づき、幻をみる。
そのほんの数秒前、僕は彼の一文で夢をみていた。
リセに通っていた頃、フランス語の文法の先生が
ジュリアンたちが、上手く課題をこなせないと
叱るよりも頭を抱えてあまりに嘆くので
彼らは、叱られるよりも強い衝撃を持って、
なんとかそのひしがれた恩師の背中を支えたいと願ったという思い出。

僕は、本文用紙や菫色の布に沁みて
薄い枇杷色になった血が、
ちょうど遠い昔の教室で、
決してそんな師はいなかったというのに
黒板に額をつけて項垂れた教師の
白いワイシャツの背中に、ゆっくり拡がる幻が複視のように
二重写しのごとく重なり、離れる幻をみる。

幻は視覚に洪水のように
或る瞬間流れ込んでくる。
その幻は、いつも突然で、捕まえようとする瞬間に消えていく。

トイレには十冊以上の出版社目録が並んでいて
特に東洋文庫だとか、白水社のクセジュとかの頁を繰っていると
洪水が頻繁に起こる。

いくら潰れた水疱を見つめても
そこには、醜い決壊の痕跡、
次を待ちわびる嗤笑しか残っておらず
幻を留めおけぬ無力な罪悪感のみが湧きあがってくるだけ。
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絹山絹子

Author:絹山絹子
狸穴幼稚園の図書委員

kochairo@hotmail.com
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