2017-03

悪夢の色彩

自分を律すること。
内省に内省を重ねること。
雑音を排除し志をもつこと。

静かな生活がしたいなあ。
ただそれだけなんだけど
いつも敵は自分の中にある。

***

久しぶりに「寒さ」の感覚が戻ってきた。
朝の通勤でジーパンびっしょり、お昼過ぎても乾いてません、ので寒いです。
それでも煙草を吸いに外に出る。
外の空気が吸いたいんだ。

8階建てのビルくらいの樅の樹が目の前の駐車場に立っている。
風と雨が一緒くたになって枝を揺らし、直ぐ脇の電線を擦っている。
火花が散らないだろうかとか、
忍者になれるなら、樹のてっぺんに立って一日風を聴いていたいなとか思う。
雨の降り出しのとき、小さな樹の下でも雨宿りに使える。
一方で、雨が上っても、樹の下は遅れて雨降りなので、傘はバラバラ鳴って面白い。

誰かの文章を詠む。
子供の頃に、そっちがわに渡れるスイッチがあったという話。
そっち側に渡ると、口の中が大きく無限大に広がっていく感覚がするのだと。
僕は扉の感覚だったな。
眼を閉じて、実家に二つあったトイレの扉を開くと、真っ赤な部屋にいける、行きたくなくても行ける。
もうひとつ、古い観音開きの箪笥を開いて、首をぬうっと突っ込むと樟脳の匂いの向うに光がある。
ああいう繰り返しの体験は、睡眠による夢でもなく、想像の「恣意」の扉でもなく。
今でも、勝手にパラメータだけ与えればどんどん話の進む白日夢をみてばかりいるけど
それとも少し違っている。
行けるのだけど、行って楽しい場所でもなく、帰り道もわかりづらいので、
自分から進んではいかない。
でも、一人で家にいて、三面鏡を万華鏡の中身みたいに三角に閉じて覗いたり、
古いオルゴールに入った、珊瑚とか瑪瑙の変なにおいのする指輪をこっそり触ったりしてると
簡単に扉は開いたのだった。

他者の夢の話は、えてしてつまらない。
つまらないといったら悪いけど、共感しづらい。
見た本人すら目覚めから砂が霧散するように壊れてゆくものを必死に再構築しようとするから
どうしても言葉は百分の一になり、映像が欠落した部分には、「補完」がなされてしまう。
不条理なものに、条理の欠片を補ってしまう力が無意識に働く。


幻の下宿人 (河出文庫)幻の下宿人 (河出文庫)
(2007/09/04)
ローラン トポール

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目的地に急がねばならないのに。
反対向きの電車に乗り、慌てて乗り換えて、さらに離れてゆく電車に乗り。
気づけば、そこは一日に数本の汽車しか来ない無人駅で、
ついでにその日の最終便はもう終わっている。
あるいは焦っているのに、無意味な議論を繰り広げ、時計を見上げてはまた別の人と言い争う。
日付は変わり、延々と時間は空回りし、待たせているであろう誰かの
悲しむ顔が沸々と浮かんでは沈み、いつまで経っても僕は「其処」へ行けない。

そういう夢を僕はよく見る。
待ち人の顔は悲嘆から絶望へと、絶望から諦念へと幾重にも黒ずむ。
本当は待っていてほしいのに、距離が広がる一方の僕の心も、焦燥を中空に投げ出そうとするのだ。
もうどうとでもなれってね。

「幻の下宿人」は息抜きで一気に読み切った。
とっておきの、覚めることのない悪夢の連続。
読む人はきっと、聡い主人公よりさらに先取りして、彼が追い込まれる未来像をみる。
彼が先住の下宿人になり、飛び降り自殺を余儀なくされることを知っている。
知ってはいても、トレルコフスキーに襲いかかる不条理の矢、隙間を縫う鮮やかな狂気の沙汰に、
ああ、この人は本当に映像の人なんだということを実感する。
血と汚穢まみれ、ついでに両性具有の夢まで叶えてくれる。

 突然、下の中庭が明るく照らされた、疾駆してくる馬蹄の響きが、あたりの静けさを破った。トレルコフスキーは好奇心をそそられて、よく下を見ようと窓から身を乗り出した。
 本当に、一人の騎馬の男が中庭に侵入してくるところだった。仮面《マスク》をかけているので顔は見分けられないが、大きな暗紅色のフェルト帽の影が、さらに仮面《マスク》を助けるように顔を覆っている。馬の尻の上に、人間の身体が横に寝ていた。トレルコフスキーは確信はなかったが、どうも縛りつけられているらしいと思った。人々が中庭でうごめき始めた。アパートの連中が見知らぬ仮面《マスク》の男を取り巻いて、何かわけの分らない身振りをしながら話しかけていた。青空のネッカチーフを頭に巻いた女が、トレルコフスキーの部屋の窓を指さした。男が馬からおりた。そして、馬のまわりを一回廻ってから、トレルコフスキーの部屋の窓の真下に歩み寄った。男は片手を上げて、まるで太陽でも見上げるみたいに、額の上にかざして、おそるおそる警戒するように、トレルコフスキーを見詰めた。オリーヴ色のズボンをはき、黄土色のセーターを着、ブドウ色のベレー帽をかぶった子供が一人、男に近づいた。そして、男に大きな黒い袖なし外套をうやうやしく差し出した。男はすぐにその外套を肩にかけると、軒庇の下に姿を消した。ほかの連中も、やはりまだ捕虜を積んだままの馬を引いて、どこかへ消えてしまった。そして灯りも消えた。トレルコフスキーは夢を見ていたんだと考えることもできただろうが、やっぱり、自分が死刑執行人の到着の場に居合わせていたことを知っていた。おそらく、男は今ごろ、トレルコフスキーの部屋に通じている階段をゆっくり登っていることだろう。やがて、ドアをたたき、返事も待たずに部屋の中に侵入してきて、不吉な仕事をやりとげるだろう。その仕事がどんなことなのか、トレルコフスキーは充分に承知していた。叫声をあげたとて、必死に頼んだとて、彼は窓の外へ突き落とされるだろう。

河出文庫2007 192-193p


 

ところが、中庭では、次のようなことがくりひろげられていた。 
 一人の青い仕事着を着たアパートの住人が自転車で走り廻っていた。彼は輪を描いたり8の字を描いたりした。トレルコフスキーの部屋の窓の下にくる度に、彼はトレルコフスキーに大きく笑いかけて、ウインクして見せた。サドルには一本のロープが結びつけてあった。そのロープは女を型どったロウ人形を引きずっていた。それはショーウインドーの中でドレスを着せられて陳列されるマネキンみたいだった。マネキンはでこぼこの地面の上ではね上がり、両腕をまるで生きているように動かしていた。たちまちロウがぼろぼろにくずれ、マネキンは地面にこすれて擦りへっていった。そして女を型どったマネキン人形は酸をかけられたみたいに跡かたもなくなってしまった。そして、自転車のうしろに引きずられているのは二本のあしだけになってしまったとき、自転車にのっていた男がトレルコフスキーに皮肉な合図を送った。そしてどこかへ消えてしまった。
 次は、棒で串刺しにされた巨大な魚を持った二人の男が現われた。男たちは中庭を数回廻ってから、持っている魚を地面に投げつけた。そしてトレルコフスキーの目を真正面から見詰めた。そして、自分の行動には目をくれないで、魚の腹を裂いて中身を取り出した。魚の内臓が溢れて、見る間に男たちのそばに小さな山を作った。すると、二人はうれしそうに笑って、魚の内臓を頭にのせた。二人は魚の内臓の冠で髪を編み、内臓を両耳からたらし、首のまわりに巻きつけた。それから、よく少女たちがするように、片足でぴょんぴょんとびながら立ち去っていった。
 二人の男のうち一人が、すぐまた現われた。そして、大きな警笛を思いっきり吹き鳴らした。そのひびきは、放屁するとき出る音に似ていた。
 そのとき、玄関口から、たてがみをつけたライオンが進み出てきた。それは縫いぐるみのライオンで、中に二人のアパートの住人が入っていることがすぐ分かった。 228-229p



もうこうなってくると極彩色曲馬団の様相。

それが彼にとって救いになるのかどうなのか、判らないけど。
夢オチでも、エープリルフールでも、
どっきりカメラでも出てきてネタばらしでもいいから
トレルコフスキー君大変だったね、君はよくこの悪夢と格闘してくれたよと
殊勲賞でもあげたい状況ではありますが、
裏の裏をかかれて、今や彼は病院の寝台の上の人。

ああ、どこかでこういう話読んだなと思ったけど、
これは安部公房の匂いに似てるんだな。
全てが悪意の罠で、息もつかせない。

ポランスキー=トレルコフスキーの映画「テナント―恐怖を借りた男」みたいですねー。
素氏持っているような気配出していましたが。
ついに自ら女装にしてシモーヌに扮し、敵の牙城に入って裏をかくつもりが。
シモーヌと同じに前歯が抜けちゃった、
抜けた歯は「あの壁の穴」に収まってた!のシーンですか、これ。

Tenant2-e13091994077452.jpg

***

悪夢というか迷宮というか。
揃ったはずの、カラマーゾフが見つからないんです。

三巻ないないと叫んでいたら、それはようやく出てきて。
でも四巻がないんです。
おかしいのは手帖の書籍購入メモには、1,3,5,4の記載があって。
じゃあ、あと2を買えば揃うなと思って、この間2を買ったわけです。
苦行の二巻、ほんと投げ棄てたくなった第二巻。
それを乗り越えたのに。
なぜか、二巻が二冊あることが判明。

そう、おいら一度も五冊並んだ姿をみていないのです。
メモに惑わされたか!第三巻ももう半分すぎちゃったぞ!
つまり、全部見つかっていないので、他の本を読んで迷宮から逃げているという。
カオスな家は困るううう。
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狸穴幼稚園の図書委員

kochairo@hotmail.com
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