2017-11

紫煙

私が煙草を吸い始めたのは、いくつかの逃避とひとつの夢の結晶だった。
遠い昔、一日中白日夢の中にいて、おおむねバスに揺られながら頭の中で連綿と続く物語を広げていた。

百合賀と呼ばれたその少女は、名前の中に蛾をもっていて
喜びの裏側に、寿ぎの裏側に、忌み名を抱いていた。
少女はずっと一人きりで、棲んでいる。
誰にも遭わない。
少女はたった一年きり、春夏秋冬を一回りだけ、ある人と暮らした。
その人は、先に逝った母親の年下の恋人だった。
百合賀は、二度と遭うことのできないその人を待っている。
晴れた日も雨の日も、その人の喫っていた煙草を取り出す。
青磁の灰皿に載せては、煙の漂うさま、香りの燻るさまを味わった。

誰にも遭わない百合賀の物語は、時間を飲み込んでいく海綿体だ。
押入れに残ったアルバムを開くことで、未知の時間を逆行するだけだ。

雨降りの今日。
私は布団に包まって、片手に読み終えた漫画を持ち、片指に煙草を挟んだ。
その完璧な瞬間をもたらした気持ちは、同時に
「掴まえたい。掴まえたい」という叫びをもたらす。
そして、眼の端に立ち上る、煙。

ああその瞬間。
指先から思念が、本当に「紫煙」となって消えていく。
私は今日、初めてその色が「紫」であると知りました。
蛍光灯に輝きをもたらされ、ラベンダーの絶え間ないフラクタル。
消えていく小龍の舞。
本当に極稀に、文字が私達に事実を知らしめることがあるのです。
むしろ煙は肺などに含まぬほうが、なんと美しい姿をみせることか。

眠っていた百合賀が、真夜中にふと眼を覚まし
遠い雷鳴に戦きながら、灯した光の下で、このラベンダーに気づくといい。

素晴らしい時間に感謝。
コダマの谷 王立大学騒乱劇 コダマの谷 王立大学騒乱劇
入江 亜季 (2006/08/31)
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