2017-05

自白の達人

決まった時間に起床し、決まった時間に家を出て、決まった相手に挨拶をする。
たったこれだけのことが、僕にはままならない。
目覚めて三時間たって、オグラさんの顔を一時間見ても、立ち上がれない。
ブルーマンデー休暇があっても、その次はブルーチューズデーと金曜まで続くことだろう。
世の勤め人の皆様の勤勉さに頭があがりません。

そんなブルーに拍車をかけるのが。
病院敷地内全面禁煙敢行、本日ついにスタートである。
魔のバレンタインデーである。

告知がなされたのは、二月頭であった。
庶務課のおじさんが、しょぼんとしながら、呟いた。
「ここで、みんなと話をするのが、楽しかったんだよねえ」

去年、下北でデートしたとき。
Sちゃんは、非喫煙者にもかかわらず、煙草文化にいたく感心を示していた。
いわく、見知らぬ者同士であって、ライターの気さくな貸し借りから
とりとめもなく、かつ有益で濃厚な会話が生れているはずだと。
興味津々で煙草の種類の選び方や、ライターの点火方法を尋ねてくれて、
僕はたいそう嬉しくなったのであった。

そう。
僕みたいな人見知りの激しい子であっても、どんなに沢山の出会いがあっただろう。
どんなに面白い情報を得、はたまた人間観察を積めただろう。

ラボの一階にある透析センターにやってくる、せかせか足の腎内科のドクター。
ヘビースモーカーなので、センターの往復に慌しく先っぽに火を点し、
スッパスッパと音を立てて、駈けて行く。
その先生が、大磯から通っていて、息子は何歳で、どこどこの高校受験を控えていて
なんて個人情報を知っているくせに、僕はその先生の名前を知らないのだ。
先生は、本日、物凄く怪しくも落着かない視線をそこらじゅうに飛ばし、
ついに、保育園のある建物の裏側や、掃除業者さんの使うトイレに隠れ込んだ。
そうだ、あれだけ補給していたニコチンをすぐに絶てるわけはない。

そして僕も、三時には遂にニコチン低下で、頭痛に見舞われる。
どんな感じなの、切れると?
喉が渇く感じ?
いや、いや、マックロクロスケみたいな、エヘンムシみたいな奴が頭と肺の上で
だんだん増えてきて、イライラが増すんだよ。
なんか、ipod持ってるのに、イヤホンがねえんだよ!みたいな感じ
と伝えてみるが、的を得ていない感じがする。

遂に、外に出る。
一番近いところは、コンビニの灰皿、その次はホームセンターの灰皿、
お金を払えば、豚カツ屋か、和風ファミレスの灰皿も。
周りを見回す、点滴引いたおばあちゃんが、体はバス停に向っているが、
思いっきり敷地の端石に腰かけて吸っている姿に、苦笑。

コンビニに着く。
先客あり。
やつれた感じの主婦?
一服つけて、ふっと噴出すと、声を掛けられた。

「もしかして、病院で吸えないから、ここにきました?」
「ははは、正解です。困りますよねー」
「ほんと、子供が入院してるんですけど、もう我慢できなくて。二十四時間看護なんです」
「ええ!大変ですね、泊まりじゃないと駄目なんですか。おうちのことできないでしょ」
「もう上のお姉ちゃんが淋しがって。でも仕方ないから。ここ看護婦さんに訊いて来たんです」
「ああ、ここが一番近いです。私は、、職員なんですけど、白衣脱いで来ました(笑)」
「あ、やっぱり!その靴が普通じゃないと思ってました」
(僕はナースサンダル穿いてます)
「いやーばれちゃいますね。まあ、看護婦さんとか簡単に制服脱げなくてたいへんなんですよー」

と、こんな風に。
日常では絶対喋ることのない人と、急に盛り上がる。
一瞬にして、お子さんの病名まで教えてもらう。

容疑者が、刑事に煙草をねだるでしょ。
ねだるなら、あげた方がいいです、ついでに刑事も吸いましょう。
心安くなって、ぺらぺら喋るかもしれません。
自分の名前以外は。

これが、麗しきかな煙草文化でありんす。
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絹山絹子

Author:絹山絹子
狸穴幼稚園の図書委員

kochairo@hotmail.com
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