2017-09

タヌキの嗅ぐ山

腹いてー!
といまだ一時間に数回悶えつつも。
なんとかここまで回復。

昼過ぎて熱下がりにけらし白妙の洗濯干すてふ小名木の川端

っていうか、末句は「タヌキの嗅ぐ山」の方がいいかしら。
って何を嗅ぐの。
どうも二日間高熱で頭が少しおかしいようで。
さらになんとか職場にいったら、逆に頭が冴えました。

帰りの電車の中で『航続海底二万哩』に収録された
「月と陽と暗い星」という虫太郎の短編にぶっとぶ。
この本、結構変な短編オンパレードなんですよ。

青空文庫にすでにUPされている、「一週一夜物語」は
主人公をMr.O'Grie(オーグリー)と名づけて横浜から印度に渡らせヘミングウェー嬢との
ドキドキ恋物語を描かせておりますし。

「美しい鱒」は虫太郎が新青年の『運命の書アンケート』で青春の一冊として回答した
ミューラーの「ドイチェ・リーベ」を引き合いに出したもの。
さらに虫太郎作品の中ではいままで一度しか見ていない、企業乗っ取りが舞台でして
加えて、主人公の女社長にして航空機設計士の紀伊子は初恋の年下の男性を娘に奪われ、
逆に腹いせに娘の婿にしてやろうと考えていた男から告白されるという、
珍しいドロドロ恋愛ドラマ。

「紅い喇嘛仏」は美しい幼年期の王子様と日本人少女の恋が、ピカレスク取り替え譚に変化。
もちろん、あの虫のレズものの最高傑作「方子と万起」や江戸時代探偵もの「岳太郎出陣」も入ってます。

でも、この「月と陽と暗い星」はそのいずれも退けるほどの、大ギャグ!!
このタイトルからは全く想像不可能なほどの。
何しろ、世にも珍しい平安時代が舞台なんですよ。
主人公は赤染衛門ちゃん(笑)。
三十代というのにおそろしいほどの童女づくりだとか。
最初に笑ってしまうのは、衣装や小道具は平安時代にしていても、喋る言葉が現代語そのまま。
さらに、地文に、虫ちゃんお得意のカタカナルビが踊り始める。
そして、話は世を騒がせる孤独の変革者・百済根童子〈くだらねどうじ〉に移っていく。
いつの世も、孤高の反逆分子、悪漢に対しては、世のオバサマたちはキャアキャア云ってしまうもの。
赤染衛門も、おしゃべり仲間の伊勢大輔も、悪くは思っていない上、大輔から策略の片棒担ぎまで頼まれる。
おしゃべり過ぎて、夜は更けて、赤染衛門の旦那様・匡衡がお迎えにくる。
帰路、警護が厳しくなっているのをみて、お堅い匡衡はイライラ。
そこで赤染衛門がちょっと百済根を持ち上げるようなことをいったものだから、夫婦喧嘩勃発。

僕の平安時代の女性のイメージを覆すような展開が進んでゆく。
赤染衛門は全く負けることがなく、検非違使がヘナチョコだからとか、挙句は旦那に向かって「羊」と弱虫扱い。
最後は、自分の方が才女で五位(匡衡は六位)で位が高いのだと、旦那を蹴飛ばし蹴飛ばし、池の端まで追い詰める。
すげー!

まあ、この後、安部晴明まで出てくる展開は皆様に楽しみにしていただくとして。
さきほど、地文、ルビならまあ許せるかと思った外来語/カタカナが縦横無尽に飛ぶ様を引用して
大笑いで終わりたいと思います。

今日も素氏と話していたのですが。
一斉に100人が黒死館から虫太郎世界に突入したとして、生き残るのはよくて10人
そののち、法水シリーズに入って残るは、二、三人。
そして、こんな辺境の面白短編に辿り着くであろう変人は一人いるかいないか!
という予測が立っております(笑)。
かくいう素氏も辿り着いていません。
ということで、奇人うれしや、変人たのしや、
貴方も是非奇人の一人になってみませんか?

では、昭和14年に「オール読物」に書かれた平安時代ということをよくよく頭に描いてご賞味ください。
僕は、これを岡野玲子の『陰陽師』を百年先取りにした作品と呼びたいです!

その翌日、空前の賑やかさで性空上人の行列が、京の西郊から繰りこんできた。
陽気で派手好きな上人はバンドをつくり、法螺貝に、ピストンをつけたホルン様のものや、大型の、バス・チューバ型、トロムボーン型、横笛〈フルート〉に、篳篥〈しょうしちりき〉の木管に銅羅に鼓をくわえ、輿をまもらせ堂々と乗りこんできた。香煙、銭雨、念仏のなかで、侍僧どもが合唱する。

 仏は無差別祈祷のほかに
 尊卑あまねくめぐむは薬。
 大黄、キニーネ、苦味丁畿〈くみチンキ〉。
 これは快楽無退薬、噛めば宝の響きあり。

小栗虫太郎『航続海底二万哩』桃源社 115p

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絹山絹子

Author:絹山絹子
狸穴幼稚園の図書委員

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