2017-05

日本に西洋を持ち込む

ぎょぎょぎょ。
Pさんのブログにあの情けないタヌキ絵が。。。
でも新刊褒めてもらえてうれしかったなあ。

***

火曜は、夏休みを一日貰って、古本市@渋谷東急に行きました。
会場広いので、だんだん後半疲れが溜まって、目が泳いでしまった。
もう特価本扱いの新古書とかここ十年位に出たと思しき文庫とかは無視だ。
とはいえ、二人でレジ籠二つ一杯にして、現物は昨晩届きました。
少数(嘘?)精鋭部隊とはいえ、古本肴に旨い酒が飲めるのは嬉しい限り。

月曜の夜は、一人でレイトショーを観に、銀座シネパレスへ。
先日の露アバンギャルド祭で「アエリータ」観にいった時に、
素氏はすっかり眠り込んでいたので、むっとした僕は
(いや仕事疲れてるし、いつも夜九時にはオネムさんなので仕方ないのですが)
一人で怪しい地下の映画館にしけこんだというわけ。

「アエリータ」はまだ感想書いていなかったのですけど、
大して映画観ていない僕がいっても何の説得力もないけど、
人生の観賞体験で10本の指に入る!といっても過言ではないほど、面白かったのです。
とんでもSFだけど、ある種の幻想ミステリともいえ、隙間にギャグが満載
さらに火星のシーンは、前衛バレエとも呼べるほど、衣装も動きもかっこよかった。
なので、素氏が楽しめなかったのが残念で、余計にむっとしたともいえます。

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(2005/12/22)
ユーリア・ソーンツェワニコライ・ツェレテリ

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ノイローゼ気味の主人公の鬱満開の表情と、
彼の妻の天真爛漫にしてくり貫かれた穴のような瞳が
モノクロの画面の中で、こちらに圧しかかるような切迫感を与えていました。

そう、モノクロってそれだけで、恐怖を持っている。
この間、NHKの戦後SPで、
二次大戦のナチをはじめとした映像にデジタル彩色を施したものを流していたんですが。
二十代の若者がこんな感想を述べていた。
「カラーになったことで、遠い過去が、何十倍も現実味をもって迫ってきた」
そうねえ、確かにそうなんだけど。
一方で、色という具体性が与えられることによって、
幻→想像力が入り込む隙間が絶たれるともいえるはず。
幻を求めないノンフィクションには、有効な手立てではあるけど。
光を絶たれた夜に忍び寄る恐怖の気配を、
ノンフィクションにおいてすべて手放していいってわけでもないだろうとも思った。

では、カラーで描かれた映画は?
特に恐怖映画は?
血の赤を見るよりも、モノクロの方が何十倍も怖いと思うのは僕だけかな。
今でも一人でモノクロ怪奇邦画は見られません。

今回観に行ったのは、これ↓。

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黒沢年男田中邦衛

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うっ。なんかこのタイトル写真ひどいぞ。
B級色、丸出しじゃないですか。
(僕、B級感覚よりも、Aでなければ、Z級くらい砕けてるのが好きなのに)

でも、すごく良くできた吸血鬼ものでした。
約めて言えば、
「日本に西洋を持ち込む可能性を最大限に広げて美しく撮った作品」
おやおやこのセリフの前半は、我らが『逍遥』で何度も登場したもの。
そう虫ちゃんの憧れもそうであったわけですが、文字の上でも難しいものを映像で挑むのは一層難しいはず。

この作品における最大の美点は、空間の仕上げ方だと思うのです。
まず舞台となる洋館(学長の邸宅)の外観は、明らかに前田侯爵邸を使っていて
内装も家具の一つ扉の一つ小道具の一つどれをとっても、抜かりなし。
西洋アンティークをただ持ち込んだだけでは、おそらく胸やけしかねないゴシックに終始していたはず。
単純にして洗練されたデザインが、素晴らしかった。

またもう一つの舞台であった、学園の女子寮も、
想像の世界にありながらも、いまや現存を望むことも叶わない古式ゆかしい木造寮。
舎監室の窓や階段すら、懐古趣味をそそって愛しい。
こうなれば、フリフリチョットスケスケ・ネグリジェの上にガウンを羽織ったお嬢様たちが
吸血鬼を見て、きゃーっと悲鳴をあげ、失神(笑)しても全てが許されるというもの。

そして極めつけは、独自の吸血鬼伝説を裏付ける、荒野に残された棺桶。
おそらく江戸時代、異人がこの村を訪れ、さんざんに村人からいたぶられた挙句、
耶蘇像に唾を吐きかけるように命じられた。
食料も水もないまま彷徨い、自分の手首から血を啜って生き延びようとした。
そして、一軒の村はずれの小屋で乙女を見つけ、彼女の血を吸った。
この二人が、その後、新しい肉体を手に入れて学長夫婦になり、生き延びているという。

その最初の偉人と乙女が、一度は殺され入れられたという曰くをもつ棺桶は、
とうに空になり、野ざらしになっている姿を、
新任の教師(黒沢年男)と校医(田中邦衛)がじっと見つめている。
この棺桶が、いわゆるドラキュラものにありがちな棺なら、全然だめだったのだが。
廃材を組み合わせて、鉄板でかしめた堅牢な船箪笥風の佇まいが、朽ちて真黒になっている姿が、
ものすごくぐっと迫ってくるわけですよ。

別段童唄や毬つき唄が出るわけでもなく、誰も着物もきていない。
自動車も走り、駅舎には不機嫌な駅員が一人いる。
その一昔前の少し田舎の地方にあった景色の中に、転がる棺桶が、
また一切の不自然さを排除して持ち込まれた、西洋を感じるのです。

一人で行ってきていいよと勧めてくれた素氏お気に入りの吸血鬼・岸田森。
彼もまた、別にバタ臭い顔ではない。
ヌッペリとしていて、タートルネックが似合う人。
しかし、動揺や激昂を捨て切ったような禁欲的な面持ちで、洋館の階段を降りてくる姿に、ぞくぞくする。
歯を剥き出し、眼をみひらき、女性に近寄っていく瞬間よりも、
むしろ秀麗な学長の顔の瞬間の方が、異形のものに見える、不思議な俳優さんでした。

真っ白な薔薇の棘で指を傷つけた乙女たちが、彼に進んで近づいてゆき
血をささげると、薔薇は真紅に染まる。
次の犠牲者となるために呼ばれた黒沢年男と同じ運命を与えられ、
唯一の逃避として佯狂になって精神病院で住まう男は、結局口を開くことはない。

多くを言葉で語らず、耽美な小道具で仕上げる繊細な造作が
邦画とは思えないとても素敵な吸血鬼ものになっている、またひとつの所以かと思いました。

うーん、楽しい一夜だったな。
ここのところ、一つ名画座に行くと別の映画特集のチラシが落ちていて、
居てもたってもいられなくなるという、
ある意味の好循環/悪循環を繰り返しているのでありました。
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絹山絹子

Author:絹山絹子
狸穴幼稚園の図書委員

kochairo@hotmail.com
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