2017-05

ホシヅルに願いを

最近我が家ではやっているのが、「◎◎の佃煮」である。
佃煮、つまりは茶色く煮詰められて、塩分その他諸々の成分が濃厚に凝縮したもの。
使用例。
「おばはんの佃煮」「おっさんの佃煮」「女の佃煮」などなど。
おばはんの佃煮:何しろ喋りまくる機関銃のごとく、どうでもいい話を、恥じらい欠乏中。
おっさんの佃煮:やさぐれ感満載に昼間から酒を飲みつつ、競馬観戦で燃え上がる。バス停やホームで傘をゴルフスイング。
女の佃煮:集団とは限らず、一人でも佃煮。電車の中で化粧がんがん、エレベータの中は香水地獄。
まあ、我が家ではかなーり揶揄して使っていますが。
はてさて、我が家は「本の佃煮」と呼べるのか。
いや無理でしょう。味は薄いし、煮詰まり度も足りない、しいていれば黒っぽいではなく、ひたすら茶色い。
むしろ干物とか、ごった煮の方が近いだろう。
(あー、古書店で黒っぽい本があったという輩が苦手だ、僕は。)

6/26ってもう三週間前ね。
こちらグツグツに煮詰まった頭を開放するべく、世田谷文学館へ向かった。
Sちゃん様からありがたくもチケットを頂戴した「星新一展」である。
都営新宿線と京王線は一本でつながっているのだけど、やはり乗換は必要だった。
芦花公園駅で降りて昼食!と思っていたが、いざ着いてみると碌な店がない。
仕方なくスーパーに入っていたリトルマーメードでパンを買い、ベンチでもさもさ食べていたら、雨が降り出す。
何やらハイソな気配に包まれつつ、文学館へ到着。

二階の会場へ向かうと、結構な人の数。
会期終了間近というのと、瀬名秀明さんの講演があるせいだろうか。
若い人が目立つ。
本当なら最相葉月さんの「1001話をつくった人」を読んでから来たかったのだけど、間に合わず。
僕の星新一体験はもっぱら中学生の頃の新潮文庫。
手当たりしだい一日一冊図書カードをぱんぱんに膨らますことを目標に、学校の図書室に日参していた。
新潮文庫が置いてあった場所ははっきり思い出せるけど、星本の内容はもうほとんどない。
当時のお気に入りでローラー作戦的に読んだといえば、ペリー・メイスンのガードナー、クリスティ、表紙が怖くて伏せて寝た角川の横溝、そしてなぜか小峰元(笑)。
あと夏休みの感想文のために挑んだ「赤毛のレドメイン家」と「ジェーン・エア」は大好きだったな。
ブロンテ姉妹って、ハーレクインの原型だもの、中学生はときめくわ。
で、星新一。
当時の自分にはショートショートの苦労も分かるわけがなく。
さらりさらりと金平糖を散らすだけだったにちがいない、、、すみません。

文学系の展示って、難しいですよね。
写真と遺品と原稿が並んでいるだけだと、ありきたりになるし。
今回は逆にその原稿の部分を最小限に抑えて、メモや下書きをオブジェに見立てた展示が面白かった。
なにしろ下書きの文字が虫眼鏡ないと絶対読めない米粒以下の小ささで、その紙きれが壁に透明のカプセルに詰められている。
そしてアイデアの源泉、ひらめきメモが色んな花弁にも見える紙が無造作に箱の中で踊っていました。
茶目っ気いっぱいの人柄とか、鴨の水かきエッサホイサの部分が垣間見られて、ほっこりできました。

個人的には、真鍋博さんと和田誠さんの原画展示が、とても嬉しかった。
トレペの上から書かれたCMYの指定に、その一切の迷いのないペンの走りにどきどきした。
そういえば図録が、展覧会から一歩ずらした視点で構成されていて、すごくよかったのですが、
(色んな人の思い出話とか載っていて)
一点、イラストの製販だけは、ダメダメーだったのが残念でした。
蛍光っぽい色味は難しいのはわかるのだけどー。

で、一階に戻った僕は、ついでにと常設展を巡る。
受付のお姉さんに言われて、そうかここにはムットーニからくりがあるんだったと思い出しました。
またも、すみません、特にムットーニ大好き◎君。
上演まで待つ間、安吾の見たことのない色紙や、世田谷下馬にあったという天井桟敷の不思議なメゾネット内部を榎本了壱が描いたものなどをつぶさに見る。

さて、からくり箱の前に置かれた丸椅子は十席ほど。
そこに僕も鎮座し、二人の男の子をつれた若いお母さんとお父さんも座っていた。
演目は、朔太郎の「猫町」、十三の「月世界探険記」、中島敦「山月記」という布陣。
学芸員さんから演目が知らされた際、僕の後ろにいた若いカップルさんが「山月記」の粗筋をしゃべっているのを、ぼんやりと聞いていた。
ああ、やっぱり文学館に来るくらいだからなあとか、なんとか。

三個目の箱に進み、そろそろ小さいほうの男の子がじれだした。
からくりは煌めいているけど、ナレーションは原文のままだから、いまどきのお子様にはときめかないのかもしれない。
そして舞台は叢の奥の扉が開き、李徴が二つの姿で現れるシーンであった。
まずは立ち上がった獣の姿で。
眼が闇の中で、ぴかりと光る。

その瞬間、お母さんは大きな声で叫んだ。
「ほら、クマさんが出た!大きなクマさんだね」
おかーーさーーん。
雷鳴がとどろき、稲妻が走ると、ヒトガタと獣の姿は交互にあらわれた。
そこで、椅子の上でくねくねした子供にもう一発。
「また、クマさん出たよ」
おかーーさーーん。トラだよー。

そして、からくり箱が閉じられると、「なんか難しい話だったね」と四人は去って行った。
きっと後のカップルも震えて笑いをかみ殺したに違いない。
うーーむ。
実に暑気払いにふさわしい、一場面でございました。

その後、三階の事務局にお邪魔したり、
一階の図書館で、「新青年」のBNを出してもらったり、のんびりのんびり。
お目当ての探偵小説雑誌が、ちょうど欠号していたのは残念だったのですが、
なにしろ司書の方が、めちゃくちゃ優しいので、ほっこり。
休日にビデオ観賞に来た、地元のお子様たち相手に、わいわいやってて、顔がほころぶ。
で、この図書館のコピーサービスは、セルフというせいもあるのかもしれないけど、10円なのです!
もしターゲットが合っていれば、図書館系では、一番安く複写できるに違いない。
ちなみに、僕は虫ちゃんの可愛い未収録エッセイをコピーして帰ったのでした。

さ、いつのまにか、七夕も終わってしまったけど。
梅雨の真っ暗な夜空の中、こっそりホシヅルに願いをささげよう。

「スキナコトシカヤッテコナカッタ」トイフ、メイゼリフヲ、
ボクモイツカ、テライナク、ハケマスヤウニ。
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絹山絹子

Author:絹山絹子
狸穴幼稚園の図書委員

kochairo@hotmail.com
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