2017-09

夢を食う男、食われる男

整骨院に行き始めて4回目が終了。
たいして長時間揉んでもらっているわけではないが、効果は如実に出ている。
一番の驚きは、立ったときの姿勢で、脱力しているにもかかわらず、ぴっと背筋が伸びて、胸を張った状態で落ち着くということ。
以前は、背中を丸めて首を突き出す場所が自然体で、だんだん首の坐り位置がどこにおけばいいんだ!
というくらい苦しくなっていたのでした。
まだまだ背中の慢性的な張りはあるものの、施術してもらった日は、よく眠れる。

あとは、ヘボ枕をなんとかしたいです。
僕はふわふわが好きなのですが、ふわふわはすぐにぺらぺらになるので、
嫌いな蕎麦殻枕を下に敷いて、二段構造にして寝ています。
これがどうもよくないと思われる。
なんとか高機能フィット枕を入手するため、古本を少し諦めた方がいいようです。

***

毎週水曜の夜は「相棒」があるので、素氏と二人でわいきゃい騒ぎながら観ています。
CMが入るたびに、すげー!おもしろーい!と叫びながら、慌ててお酒を注ぎに立ったりします。
僕たちは、断然相棒は、ミッチー王子がいいと思っていますが、
世の評判は違うのでしょうか。
そういえば、伊藤文学さんもブログで、肉体派の寺脇さんとのコンビのほうが、ゲイ受けすると書かれていましたが。
僕は、アクションだー、ダッシュだー!などはどこでも見られるので、
知性と知性のぶつかり合い、嫌味の応酬に大笑いしているほうが、遥かに楽しいです。
でも、来週最終回ということは、王子は降板になったりするのでしょうか。。
そうなると非常に悲しい。

「相棒」は何しろ脚本がすばらしくよく練られた構成になっていて、毎回舌を巻きまくってます。
どんでん返しは元より、パターン化されない構成なのです。
先週は、加害者被害者が、最終的にひっくり返り、
さらには、右京が電話で指示を与えるだけで解決していく、安楽椅子探偵ものになっていました。
いつだかは痴情のもつれの果てといっても、犯人の女性の想い人は、女性であったりして、おお、レズビアンでまとめたか!と驚き。
老練な構成のわりに、ラストはいつも物悲しいというのもこのドラマの特徴かもしれませんね。

昨晩は、時間軸がずらされた構成で、二人して、
CMの間「むずかしいー(しびれるー、かっこいいー)」と叫びました。
開始10分で、いつもはズンドコな三課の連中があっという間に、犯人を見つけてしまう。
けれど、その解決の裏には、右京&王子の活躍があっての結果だったと、時間が巻き戻され、視点がめまぐるしく変化する。
この素敵な構成を小説にしたらどうなるんだろう。
と、素氏に問いかけると、「途中で仕掛けがばれるかも」とのこと。
確かに今回の仕掛けは、ミスリードというよりは、途中じわじわと仕掛けの骨格が見えてくるからこそ、転変する時間軸の波に視聴者を乗せ、あの二課のオバカ加減と杉下チームの落差を鮮やかに描くことができたのかも。
あからさまに、時間が戻ることを、「巻き戻し」映像を見せて示すところとか。
何しろ素晴らしかった。

で、小説における時間軸をぼんやり考えれば。
月曜日に読了した、ある小説が出てくる。
とはいえ、その前にちょいと黒い話でもしておきましょうか。

***


先週、僕は珍しく職場の夢をみた。
ラボに出入りする産婦人科医と大喧嘩する内容だ。
清潔が第一のクリーンルームに、白衣もマスクもつけず、ずかずかと入り込んでくる。
激昂した僕は、チンピラ風の学生とその医者相手に、マイクを握り締め怒鳴りながら講義を行っていた。

そして数日後。
かなり正夢に近い事件が起ったのだ。

ラボには昨年まで、どうにもならない男が一人いた。
いわば「夢を食う男、他人を自分の夢に巻き込む男」である。
まったく実験もできず、数年間論文も一本も書かず、ただ夢を口八丁に乗せて語るだけで、全てなし崩しに存在していた人間だった。
一般の企業なら、これだけ無駄金を投資させ何の成果もあげられない人間は、とっくに干されてしかるべき。
しかし、大学の研究機関というのは、結果を出さなくても、口の上手さである程度は渡り歩ける、恐ろしい場所である。
彼は、ついにというか、完全に干物にはならずとも、居場所を追い詰められ、別の部署へ飛ばされた。

さて、ここにもう一人、彼に近しい人間がいる。
夢を食らい、他人を自分の夢に巻き込むタイプそのままの、産婦人科医である。
当然ながら、口八丁であって、当然ながら、前段の男と非常に仲がよかった。
二人が勝手に夢を食らいあって、猛獏となっているのなら、僕たちは関係がない。
しかし産婦人科医は、企業を巻き込んで、夢を現実にしようと目論み、試作品まで作らせた。

先週、僕はその試作機の前で、大演説をぶつ彼の姿をみた。
忌憚ない意見、質問をくれというので、ちょいちょいと問いかけてみた。
そうしたら、もう笑うしかない状況が展開していたのだ。

医者のくせに、フィルター一枚で、全てが無菌になると、HEPAを神のごとく崇めているのだ。
じゃあ、オペ室で、手も洗わず、器具も滅菌せず、みんなでヘパの風にでも吹かれていればいい。
本当にクラスの高いCPCでは、どんなに万全を期しても期すぎることなどないのだ。
防護服を着てゴーグルをかぶり、着替えるのに数十分、滅菌に滅菌を重ね、消毒に消毒をかさね、検査に検査を重ね、記録をことごとくつけ、多額の経費と経験と時間をかけて、「信頼」をとるのが、その世界のルール。
なんの知識ももたず、ある意味だまくらかした業者とともに、夢を吐き出す彼は、その筋を経験したことがある人間ならば、一笑に付されるであろう存在だった。

しかし、僕はなにしろ我慢がならなかった。
こんな人間の口車に平気で乗っている面々も理解ができなかった。
僕は内心嘲笑を重ねながらも、手足がふるえるほど、怒りの表情を浮かべていたことだろう。
この大きな夢の風船が、ぱちんと弾けて霧消する日が、できるだけ早く訪れますように。

***

さて、呪詛を出したところで。
夢に食われた男のはなし。
時間軸を揺るがすはなし。
と参りましょう。

時間割 (河出文庫)時間割 (河出文庫)
(2006/12/05)
ミシェル・ビュトール

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二週間かかって、ようやく読了。
苦しかった。。。

苦しい理由といえば、この本が眩暈/彷徨小説であって、読んでいると時空が歪み始めるから。
なぜ眩暈を起こさせるのかといえば、時間軸の設定が非常に入り組んでいるから。
数ヶ月前に起ったできごとを、現時点のできごとと絡めて描き、
通常思い出を語る形式の順列(時間を古いほうから新しいほうへ流す)通りの時もあれば遡行する時もあり、
加えて、近似のしたフレーズがリフレインする。

これだけ複雑であっても投げ出さなかったのは二つ理由があって
ひとつは、訳者清水徹さんが巻末に付けた、明快な時間表があったこと。
頭が整理できて、同時にビュトールの計算尽くされたプロットの壮絶さに唖然とした。
同時に、ストーリーがとても陰鬱だということ。
一年契約でフランスから英国ブレストン(ビュトールが実施に仏語教師として赴任したマンチェスターがモデルらしい)に仕事にきた青年の、町に呪い呪われるといえばいいのか。
青春とか、呼べないね。
そんな甘酸っぱさは、せいぜいが思いをかけた二人の姉妹を、友人達に奪われたことぐらいだから。

それよりも、これは見知らぬ国で何ヶ月も住まいすら見つけることも出来ず、
連日の霧と雨に閉ざされた街で、ただただ彷徨い(仕事先以外)続ける陰鬱さがすばらしいのです。
そして、「ブレストンの暗殺」という探偵小説、それを書いた覆面作家に出会ったことで、眩暈は余計に深まってゆく。

彼は現実に太陽をみることができない街で。
記録映画を観て、何度も別の国の明るい青空に憧れる。
そして僕も、映画館で彼の横に坐って、蒼穹に吸い込まれる。

あるいは、「ブレストンの暗殺」に出てくる、
旧教会のステンドグラスに描かれた奇怪なカインとアベルの物語を彼の隣で見上げ、
時間たっぷりに説明を施す聖職者の声に耳を傾ける。

この陰鬱な眩暈小説を支えている精緻なプロットは、まるで細すぎる透明な蜘蛛糸で編まれたタペストリー(新教会に飾られた、あれと同じに)であって、
僕たちは喜びを見出すことが難しい。
けれど、時折、青空や、ガラスを通った光や、はたまた探偵小説のあるようを語る箴言に出くわして、
ふっと迷路の中に光を見出す。
それは、かすかな喜びだけど、ずっと灰色の煤煙に包まれた僕たちは、余計に素晴らしく見えてしまうのだ。
夢に侵蝕されていた頭が、晴れ間を見出す快感が、ここにはある。

「時間割」を読みながら思い出した作品がある。
奥泉光さんの、「グランド・ミステリー」だ。
あれも時間軸を自在にゆらす実験を行い謎を内包し、読者を幻惑し続けた。
ただ僕が苦しいままに読了したのは、やはり「時間割」に見られた美しさが欠如していたことかもしれない。
「滝」「その言葉を」「葦と百合」等等、初期の作品で見られた透明感がどうしてもほしかったのだ。

さて、その美しさの一端を知ってもらいたく。
「時間割」から引用したいのですが、現在外出先のため、手元に本がありません。
戻り次第、引用を残したいと思います。

ちなみに。
翻訳は同じ清水徹さんですが、僕が持っているのは、中公文庫版。
もしかしたら河出文庫版には、ステンドグラスの想像図とか、時間軸の表が出ていなかったらすみません。
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絹山絹子

Author:絹山絹子
狸穴幼稚園の図書委員

kochairo@hotmail.com
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