2017-11

後ろの正面だあれ

昼休み、朝から真っ暗闇で光るローダミンとダピの赤や青の乱舞の前で聞き続けた志ん生を、もう一度おさらいしたくて、聞き続ける。
僕は他人と食事するのがとても辛い。
ipodで音だけ聞いていると、落語のこまやかな息づかいが、すぐ側にある。
志ん朝は、声に艶やハリがあって、楽しかった。
志ん生は、ちょっと聞き取りにくいけど、ときどきぞくっとする。
同じ声音の使い分け、人物の違いが鮮明だといっても、それだけじゃすまない。
「替り目」のおかみさんの声。
「唐茄子屋政談」のへなちょこ若旦那の声。
耳を疑うくらいに、どこから生まれてくるのか分からないくらいに、ぞくぞくする。
ひそめた声と声の合間の、溜息や諦めやらが、のしかかってくる。

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毎日、ほぼ毎日、遅刻する。
着いたらついたで、あと1時間、あと30分と時計ばかり見ている。
家に帰ったら、あれもしたいこれもしたい。
あれもやらなくちゃこれもしなくちゃ。
考え、考えているくせに、ぴたりと動きが止まる。
こんなダメな人でも、15年やっと働いてきたんだけど。
時間商人が、お前の時間はもう買い取り無用、加えて買い戻しも無用とのたまう。
今月のBBTVは録画すべき番組がいっぱい。
でも、初日から、録画失敗。

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田之倉稔「ピエロの誕生」を読み進める。
サーカス関連(直接ではない)文献として、とても重要だ。
ネルヴァルやゴーチェも頻出。
でも、すごく難しい。
僕のなかで西洋史の川が流れていない。
太い太い川を持つ人は、7月革命も、コレラの蔓延も、ピエロもアルルカンも、みんな船を浮かべることが出来る。
ちゃんと読み込むには、昔桑名藩の勉強をしたときみたいに、散々ノートにとってみないと分からないだろう。
サーカスコレクションの中には、中村明日美子の「コペルニクスの呼吸」も加えておかねばなるまい。

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一人の部屋で、僕は疲れると、音読をする。
声に出したところで、難解なものの謎が解けるわけもない。
ただもう一人の声を聞いて、先に理解せよ感知せよと願うばかり。

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先日抽斗から、ボロボロのルーズリーフが出てきた。
図書館に持っていっていた、澁澤龍彦オススメ本のリスト。
20才の頃の自分。
今見ても、知っている本が2割くらいしか増えていない。
チェスタトン「木曜日の男」が入っていたことに、笑う。
なんと亀さえ見放すほどの歩みよ。

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昔の自分がつくった本が、ヤフオクで高価で取り引きされている。
いったいあの頃の自分は、どういう風に受け取られていたのかな?

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今日の気分に合うようで、合わない。
明日の気分にも合わないようで、きっと合う。
墨も驚くばかりの閃光性の後ろ向きが待っている。
もう一回またたけば、正面に戻るかな。

ちなみに、白石かずこさんの詩集は一冊ももっていなかったな、多分。

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「平たい月」  白石かずこ

彼らは不滅の蝋人形 すこしずつ 夜半
交替する
代理の人形をみつけると ワックスをとり
街へいく 闇にまぎれ
今や ワックスに代る仮面をつけ
生まれたところ 両親たち
血の川 ボートでさかのぼるさま
みられてはならない
また血の川 ボートでおりるとき
港、港で逢う 雑多な異種の仮面たち
あるものは仮面 あるものは
生まれたまま 無防備の顔をつけて
アイスクリームを食べる
なにひとつ 個々の顔に おちどはない
顔たちは 集まっては議論する 互に
血の川のぼった先の神たち ひきつれ
加勢させ 他の顔けおとそうと 憎悪の
けまりすら始まる そこで血は流れ くには破ぶれ

仮面屋たちは 紙幣を数え
芸術飛行を 考える
不滅の蝋人形 すこしずつ 夜半
星の運行に したがい さからい
交替する か
ワックスをとり 街へいき
ワックスに代る仮面を求められるか
求めてはならない と いう声を
誰も きこえないふりして 通る
顔と仮面の間を 運河が通る
そこに うつる 平たい月のような
ものを拾って つけてみる と
顔であるか 仮面であるか
無数の歯痛が 水面をさざ波になり 走る
どちらか判明しがたいまま

初出 「ユリイカ 1992.2」
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絹山絹子

Author:絹山絹子
狸穴幼稚園の図書委員

kochairo@hotmail.com
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