2017-10

二度とない奇跡

さて、どこからお話しましょうか。
といってもさほど複雑な経緯はありません。
でも殊更遠回りして、少しずつ語りたい気分なのです。

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まずはこちらの絵本から。
「こどものための造形教室 楽しい手づくりあそび 木でつくる」
内田義夫 1975年 主婦と生活社


夏休みの宿題も追い込みのこの時期。
必携の一冊?
楽しくて、大人が作るにもかなり難しい工作が、丁寧な図版解説でたくさん取り上げられています。
でも僕は、もの凄く木工が苦手でした。
長さ1mの板を使って、同級生達が本棚や小机を作る脇で、板を無計画に刻み、歪んだ断面に嘆きながら、せめて木版画大好きだったので、絵を彫り込んで仕上げたのは、よれよれの歪んだペン立てでした。
きっと今も、不器用は変わらないので、電ノコの刃をブンとへし折ったりして、ロクなモノは作れないでしょう。
ではなぜ、この本を手に入れたかというと。

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イラストが利渉重雄という人だったからです。

さらにもう一冊、こちらは本当の絵本です。
本当の本当の絵本で、言葉はいっさい使われていません。

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大木の葉陰に、ユニークな面持ちの鳥たちが休んでいます。

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その大木は象の背中の上にのっていて、象は亀の背中の上にのっています。
まるで、あの世界の想像図を彷彿とします。

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さて亀は大海の中一匹だけ、まるで世界の果ては直角に下るナイアガラの瀧みたいな海で泳いでいます。
しかし大海ではなく、沢山のパイプラインで繋がれた給水塔のひとつの出来事でした。
給水塔は太く真っ白な筒にパイプを供給しています。

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おや、太い筒に見えたモノは、どうやらなにか植物の根っこのようです。

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おお確かに、罌粟の花が揺れています。
罌粟の花は誰かさんの大きな手の下で、マッチ箱のような小さな庭園で育っていました。
あれれ、手は誰かさんではなく、ブルドーザーに繋がった大きなスコップだったようです。
ブルドーザーは街に大きなビルを造っています。
その街は、高い塔が四角いウエディングケーキみたいに重なってできていて。
そのまたケーキの街は実は、一艘の船の上に載っていました。
船は、鬱蒼とした、こんもりとした木々に囲まれた川を下っていきます。
その森や川をもっと外側から見ていくと、真っ暗闇に浮かぶ、不思議な構造体であることが分かります。
宇宙に浮かぶ、エッシャーの描く不条理の瀧が、延々とどこまでもつらなって。
巨大な星をぐるりと巡って、カクカクの土星の輪のようです。
でも星は一つではありません。

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沢山集まった塊が、まるで雲のように大宇宙に浮かんでいます。
でも、この大宇宙は、抽斗の中の世界に収まっていました。
抽斗はどこにあるのでしょうか。
宇宙を収めた抽斗、キノコを収めた抽斗、レシプロ機を収めた抽斗。
いろんな抽斗が綺麗にまるで、昔の薬棚みたいに重なっているのは。
大木の幹でした。
じゃあ、この大木をもっと外から眺めてみましょう。

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あれれ?
あれれ?
元通り?

本当はこの夢幻(無限)の円環を一冊に閉じこめた絵本を全頁みていただきたいくらい素敵なんですが。
とりあえずは、このくらいのスキャンで留めておかないと。
この絵本は「なんでもの木」1980 佼成出版社。
作・絵は利渉重雄さんです。

5年間、僕は二次創作のサイトを運営していました。
その昔も2年ほど創作のサイトをやっていました。
どちらでも日記を書いていて、どちらでも、見てくれる人にはどうしても不適切というと舌足らずですが、あまりに違うジャンルのことを書いてもとか。
時には息苦しくなったりして、いつの時代も別の日記やブログを作るようになりました。
このブログもそういった流れで作ったので、更新速度も遅く、内容も偏屈極まりないものになっています。

素氏と一緒にあの美術館に行って、常設展示を眺めて、普段なら少し気に入っても、ふーんと流してしまうことの多い自分が。
その日だけは、何度も戻って、作者のかなり珍しい名字を頭に叩き込んで。
もう一度もう一度と、その銅版画に足を戻したのでした。
それが利渉重雄さんの作品との出会いということは、以前このブログで書いたお話です。
その後、蔵書票を手に入れて、今年の二月、我が家に「七つの伝説」がやってきました。
その頃の二次創作側の日記を探ってみたのですが、ちょうど派遣打ち切り、路頭に迷うの時期で壊れていて、こんな感想しか残っていません。

『週末、大事な版画がついに壁にぶらさがりました。
布団に寝ころんで視線を移すと、すぐそこに、塔が立ち並んでいる。
空気のない。
だから音もない。
叫んでも誰にも届かない。
でも光はある。
光の中から胞子が溢れてくる。
利渉重雄さんの世界は、メタの中のメタ。
手に包み込んだ内面を自らタマネギの皮をひとつづつほどいてゆき、芯に到達する直前に、私が消える。
そんな空間。
空気がないので、息苦しさは全く感じる必要がないのです。 』

さて、「なんでもの木」に描かれた世界は、その後の利渉さんのテーマに通じているように思えます。
細密に細密を重ね、ミクロの電子顕微鏡も捉えられない世界に没入したかと思うと、無限のマクロの彼方に放り出される。
たしかに可愛いちびっ子ギャングも小鳥も消えてしまいましたが、花や胞子は何千倍もの光を湛えて存在しています。
そして光の対極に立つ、誰もいない建築群も息づいています。

僕は、これくらいのささやかな感想しか書いてきませんでした。
でも、8/17、夏コミから汗まみれになって帰ってみると、吃驚することが起こっていました。
その経緯はご興味のある方は、コメント覧に記された、本当に信じられないような言葉を見て頂くと分かっていただけると思います。

ずっと昔に、完売してしまったと嘆いた利渉さんの版画集「宇」を譲ってくださるというお申し出でした。
素氏に仰天のまま、アワアワと報告しました。
そうしたら。

「奇跡だね。もう二度とない奇跡だね」と。

本当に、そう。
本当に奇跡みたいな出来事。
怠惰で飽きっぽくて、減らず口で偏屈で頑固者で。
どうしようもない僕なのに。
何時の時代にも、僕は、神様に祝福されていると思っていましたが。
何時の時代にも、たくさんの幸運がやってきましたが。
こんなに素敵なことは奇跡みたいとしか、言いようがありません。

昨日、その銅版画集「宇」が届きました。
七葉の版画に閉じこめられた光と闇が、すぐ傍らで息づいています。
これから、この宝物のことを少しずつ書いていきます。
少しずつ拙い言葉に変換していきます。
なので、続きはゆっくりとご覧になっていただけると、嬉しいです。

最後になってしまいましたが。
お譲り下さったK様、画集を世に出してくださった彩林画廊主の新田様、こんな素敵な作品を作ってくださった利渉重雄様、本当にありがとうございました。

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● COMMENT ●

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絹山絹子様

 利渉重雄氏の銅版画集「宇」が、
最も適切な方のお手許に納まり、
喜んで戴けて大変嬉しく思います。

 8月25日 元画廊応援団 K


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Author:絹山絹子
狸穴幼稚園の図書委員

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