2015-11

先見の明

新しい職場で一番話をする子は僕より20歳若くて、しっかりさんだ。
彼女は一歳の女の子のお母さんで、しゃかりきに生きている。

実験が好きで好きで、昼ごはんもろくに食べず、定時より早くきて、ぎりぎり残業して、走り回っている。
オボカタ事件でもよく知られるように、この世界では実験ノート作成が不可欠だが、彼女はその記録に時間をとられるのを嫌う。
なので週末はこっそり持ちかえって自宅でそれをやってしまうくらい、実験が好きだ。
わずかな時間でも閑な時ができてしまい、僕がちょっとヤバイーと走っていると、手伝います!と叫ぶ。
手を動かしていないと死んでしまうモグラみたいに、マイクロピペットを握っていないと倒れるといわんばかりに。

隙あらば昼休みを長めにとり、煙草を吸いにこっそり抜け出し、人がいない日は早くあがってしまう、ネズミ部屋でこっそり校正やっちゃうような、サボリの僕とはまさに対照的なのに。
なぜか、彼女は僕に一番気を許しているようにみえる。

なんとなく、そんな気がしていたが。
彼女もまた、人と一緒に食事がとれない人だったのだ。

「女子な話が大嫌いなので」
「コミュニケーションのために、たとえ給料でなくても一緒に食事しろって、コウーディネータが言うんだよ」
「それは、ひどいですね。無理ですよ」
「無理だよ。人と話してたら休憩にならないし」

ふふふとお互いシャカシャカ実験しながら、笑いあう。
とはいえ、彼女がいうほど、ここの同僚さんたちはひどくない。
コドモ、ビヨウ、ダイエット、ファッション、ワルグチの呪いの内、コドモ以外は極めて少ないからだ。
この間も、誰一人としてマスカラ使ったことがなく、僕のビューラーの使い方不明説に同意してくれた人多数だったから。
子供の話は、まあ仕方がない。
というのも、先見の明があるのか、三十代前半の上司は、あえて子持ち主婦を選ぶようにしているから、9割以上がそういう人で占められている不思議空間。
恐らく上司からすれば、子供の病気で急に休まれることよりも、子持ち主婦の有能な部分、たとえば限られた時間でテキパキ実験をする、問題があったら恥じらいなくすぐに報告する、整理整頓の工夫がある、お互いにコミュニケーションがとれ、自発的に分担仕事をこなせる。。。
なんていうことをちゃんと判って人材選びをしているのだろう。

いや、本当に驚くほど、みんな自発的にサクサクいろんなことをこなすので、驚いてます。
この9割からもれた、一応なんちゃって主婦ではあるがダメダメな僕は、おろおろしてしまうほどに。

そうそう、先の子は、こんな話をしてくれた。
寛解したけど白血病になって、自分の生殖能力が疑わしくなったので早く子供が欲しかったのだと。
ほー、ほーと僕はそんな生き方もあるのだと、共感はしないけど、興味深く聞いたのだ。
「実験だけじゃなく、生き方も前倒しやね」
これが笑いながら、後ろ倒しの僕が返した言葉だった。



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