2015-07

夕霧

フの感情、
いやあらゆる私的周辺を抹殺しても、
綴ることが出来る人の方が
景色はよくよく目に飛び込むのだろうか。

草いきれ、
指を這わせれば忽ち流血しそうな
青々としたのびやかな草叢。
できれば首の高さ、唇すれすれの高さまで
繁茂した緑の海に溺れたい。
カメラでしか捉えられない草々の動きより
さらに緩慢に立ち尽くす僕は
ついに飲み込まれるその時まで
どんな表情を浮かべているだろう。

街を歩く時、
煙草を吸うためにだけ窮屈なカフェに座る時、
僕は草の海を想う。
そこへ馳せるのではなく、
気づけば、もはや包まれているのだ。

あの何者でもない
あまりに遅滞した空間。
風紋のごとき無へとのぼりつめる。
そこには、ただ緑の海。
僕が立っていた僅かな痕跡すらない。


いつか嘘つきは嘘に呑み込まれる。


草叢はもう包むその手を伸ばさない。


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恵人

このあいだ高校の同級生に会った。
みんな高校生の時、大人なんてこの世にいないなんてこと想像だにしなかった。
と三十年近く経て、今振り返っているにちがいない。
草食通り越して無食になっている若者とかいうけど、
僕達も、同じくミニマルに目立たぬよう、ささやかな個の充足だけを求めてるのだなとか、感じた。
勿論、まれに自己を律して、前進してる人もいるのだろうけど。
身近には全然いない。

ほんの時々
年賀状とかに書かれている、自分の他人に与える印象をみて、愕然とする。
あまりに自己認識よりも、良く書いてあるので。
お世辞とか割り引いても。
この段差は、無意識の自己演出なのか、それとも真なのか、いつも戸惑う。
ただ真実はこの世に存在しないだろうし、
というか、いわばこれはかの「分人」のなせる業なのかもしれないし、
実際に僕は結実という名の、どの山にも登りかけてすらもいない。

ひとついえるのは、
嘔吐しない程度には、
外部からの評価を浴びている
「べきである」
ということだろう。

明日は平日になるので
そろそろ面接日セッティングされそうで。
万が一の場合、どうやって遁走しようか、
いや諦めて人の海にダイブすべきか。
思いあぐねる。

むしろ人と話す恐怖を克服する力より、
通念を脱し自分を律して、人外で生きる力がほしい。


***

高安国世 歌集「真実」より

美しき平行線を張りいそぐ蜘蛛の行ひためらひもなし

十九世紀オーストリアの小説を疑ひながら今日も訳しをり

適応の動物といふ言葉あり適応の限界というふことも思えり

葡萄の実ふくらみそめし下蔭よひそかにひそかに雨のふり出づ

息がつまる窓をあけようと癖の如く小説のなかにも書きしロマンローラン

橋の上に乾しし青草宵闇にしるく香にたつ踏みて帰らむ






気配

40日くらい、気心の知れたごく限られた人としか、喋らなかったので。
久しぶりに、苦手な感じの人と二時間初対面で話すことになり、終わってから、グワッとなる。

人と食事できないので、また昼休みとかいう摂理が生まれたらどうしよう。
それを考えるだけで、息がとまる。
一見さんお断りではなく
一見さんのみ耐えられます。
反復したら必ず破綻する。
無人の職場とかないだろう、ないだろう、ありません。

学生の頃、建築系の事務所でバイトしてたとき。
昼休みも、おやつすらも全員集合で。
緊張で腹にガスがたまり、どうしものかでありました。
地図の色塗りとか、プログラミングとか、集中してると楽しかった。
いや、一人のおつかいがもっと好きだったな。
図面の青焼きコピーを作りに行ったり。
一見さんなら、日常会話抜きなら、成立する。

治ってないなあ。
恵美子のお喋りクッキング観ててすら、
えげつない圧力を思い出し、フラバする。


気の配を滴のごと垂らし飽くまでの水晶の時、眼球は罰

蟹のまたたき

一ヶ月がまたたく間に過ぎる。
料理ばかり作る。
新しい酒の肴を次々開発する。
レシピとか苦手だから、
というか信用してないので、
オリジナルに身をまかす。
時々息が詰まって、散歩やプールへ行く。

望まぬ人と会話しなくても、誰にも咎められないという、恐ろしいほどの安堵に酔う。
三ヶ月以内にもどらないと、ダメコースに乗ると脅される。
他のことはペシミストだが、
静かに生きるということにかけては、不安を感じない。
が、圧力が色々かかる。
あんまり前回の終盤、認識の数倍、追い詰められていたようで、この台地にじわじわ肉体が最薄まで延展してゆくような安堵を感じると、手放すのが惜しくなる。
毎日また人と話せるようになれるのかしら。
戻れば手当がどかんと来るとか、有機溶媒の匂いが嗅げるとか、ピペット握れるとか。
天秤にかけること事態にさもしさを感じる。

いつか見上げた水上の夜空が恋しくなる。
いつも街場に暮らしたから、懐古でもないのだけど。
乱視、近視では滲む月と星辰の光を吸い込んで、静かに夜に包まれるような、未来があればいいのにと思う。

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プロフィール

絹山絹子

Author:絹山絹子
狸穴幼稚園の図書委員

kochairo@hotmail.com
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