2012-12

記号化

僕はブランドというものの意義がどうしても理解不能なのだが
いつだったか、神戸から来ていた妹が
例のでぃーん&でるーか、とかいうロゴが書かれただけの
布袋を持った女性とあまりに行き逢うものだから
「記号じゃ記号」と云っていたことを思いだす。

何も入りそうもない小さな小さな紙袋。
ただ、てふぁにーとか書かれているだけをぶら下げる。
雑誌付録についている袋、記号としてのロゴと記号化した文様を
洗いざらしで煤けても持ち続ける心理。
どうしても分からないんだなあ。

もし本当のブランドの持つ中味の良さが真にあるのならば
(そこは理解できていない)
それを分かっている人は、そういう記号に
惑わされたり、気どりに使ったりしないのではないだろうかとも思う。

少なくともいえることは、
たしかに記号は一部の人を惑わし、
表層的に過信を呼び起こさせ、
同時にそれを見る一部の人間は、揶揄の対象にするものだということ。

その揶揄が極めて洗練されてゆくと
時に記号は謎と恐怖と、揶揄よりも数段高い笑いを産み出す。
そういう小説が、結構僕は好きで
記号がもつ無機質の美学みたいなものまで感じ取ることができる。

失脚/巫女の死 デュレンマット傑作選 (光文社古典新訳文庫)失脚/巫女の死 デュレンマット傑作選 (光文社古典新訳文庫)
(2012/07/12)
フリードリヒ・デュレンマット

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「失脚」にはAからPが一室に閉じ込められて、恐ろしい心理戦を繰り広げられる。
国家にまで肥大化し崩壊寸前の革命組織の成れの果て。
いつ自分は粛清にあうのか、己の権力を奪われるのか、いずれもが戦々恐々としている。

この場面を見ていて、僕が思いだしたのは
同じ光文社古典文庫で初めて読んだ、チェスタトン「木曜日だった男」。
ABCではなく、曜日でのみ呼ばれる男が見えない組織に潜入する。
あるいは、スミヤキストQ。

それにしても、革命集団やアナーキストは、なんと戯画化されることか。
同時に記号化されることか。
それはそこに、禁欲的で美しいはずの志に遂行のための暴力が加わると、
眼を背けたくなるような非道と恐怖が必ず生まれ
その恐怖が硬直して、外部と乖離していくと、
必ず強烈なバカバカしさ、遂には笑いが生じてしまうからだ。

僕は、いまだ大真面目に内部で結晶化してゆく清い使命も
溢れてしまった恐怖も
最後の笑いも、みんなひっくるめて革命というものに
いつも心惹かれている。
内部で用いるコードネームでも、外部から意図的に名づけられた記号にも
惹かれ続ける。

けれども、意志も恐怖も何もない
巷に溢れる記号には、ただ辟易とするばかり。


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君は誰なのか

もうひとつ「ダクダク2号」の内容に触れておこう。

復刻に用いた『科学画報』には一時期多くの「科学小説」という読み物が載っていた。
やはりSFに通じるものが多く、
ネット上で日本のSF黎明期を調べられている方も、こんな詳細な記事をかかれている。
おそらくSFファンには貴重な翻訳初出ものも多くあるのだろうけど
門外漢の絹山には、ウェルズくらいしかピンとこない。

そんな中で、ちょっと毛色が違うのが、独逸怪奇小説と銘打たれた
ベルンドルフ「毒を追うドクトル」(昭和6年1月から連載開始)というのがある。
こちらも同じ方が調査された記事があって
え!独逸怪奇!
なーんて言うととっても喜んでくださりそうな方が目に浮かぶが
実際読むと、ヘタレ薬中ドクトル、ヤクガキレテコマッテルンデツーな変な話。

まあ、こちらはいつかオマケで復刻でもしたいけど、
コピー誌にするには相当分量あるので、希望があれば…ってことで。

で、今回我々が復刻した唯一の小説が
河邊天馬の「踊る指紋」っていう科学小説です。
ちなみに、よくあることかもしれませんが、目次には「指紋は踊る」になってます。

ある朝サラリーマンが、泥棒が入った!と妻にたたき起こされる。
確かにガラス戸は壊されているが、何も取られていない。
取り敢えず交番に届けようと煙草に火をつけたら驚いた。
指に墨が塗られていたのだ。
刑事の語るところによれば、最近何もとらず寝ている隙に家人の指紋を取って行く、謎の人物が横行しているとのこと。
さて、犯人は誰か?何の目的で次々に指紋を盗むのか?

こういう書き出しなのですが
物語非常に面白くなっております。
ちゃんとミステリに仕上がってると思います。
でも結末は……ふっふっふ。

作者の河邊天馬なる人物については、何もわかりません。
いえることは、文中に出てくる委細な疾病薬物に関する記述や
ゴールトンの指紋論に言及している所から
名のある医学関係、法医関係者の変名ではないかと。
あと銀座界隈に土地勘があるようだってくらいですかね。

もしご存じの方いらっしゃましたら、ご教示くださいませ。

うずまく

今冬復刻した小酒井不木の「指紋の謎」は
複雑な指紋の分類法に簡単な二進法の原理が用いられていた。

大きく指紋の型は渦巻きの渦状紋(混合型を含む)と蹄状紋(弓状紋を含む)の二種にわけ
蹄状は全て0とし、渦は小指から親指にむかって存在すれば、
1、2、4、8、16(つまり2の階乗)をあたえる。
そして各手ごとに和をつくり、左手を分母、右手を分子とした分数をつくる。
さらに分母に0が来ることを嫌って分母分子おのおのに1をたす。

すると出来あがった分数は非常に美しいシンプルなものなのに、
ただその分数ひとつをみれば、元々の左右十本の指の渦か蹄か否かの組み合わせに遡ることができる。

なぜなら、1、2、4、8、16にオンオフを与えて
五個の数字を好きに組み合わせて出来た和は、
ただ一通りの組み合わせしかありえない。

たとえば、分類分数が18/5であるとするなら
おのおのの分母分子から1を引き、17/4
17になる組合わせは、1+16しかなく,4になるのは4単独のみ。
だから右手は親指と小指が渦で他は蹄、左手は中指だけが渦状で他は蹄と結論付けられる。

これは、情報処理系の基礎論をやった人が必ず習う2bit⇔10進法⇔16bit変換と同じ原理で、
単純ながら美しいと思える小さな種を孕んでいる。
21=1+0+4+0+16=2^0*1+2^1*0+2^2*1+2^3*0+2^4*1=10101(2進法)
=5+16^0*5+16^1*1=15(16進数)
a^x=aのx乗
といった感じ。

余計にややしく思ってシャッター下ろした人にはすみません。
でも、こういう原理が簡素化されて犯罪捜査の一義を担っていた時代の匂い
個人的には非常に美しい論文だと思うので
是非冬コミで「ダクダク二号 特集・探偵の科学」に触れられた方は
こういうものも楽しんでもらえたらと思います。

冬コミの参加日程、新刊内容の詳細は素天堂の日記にとんでくださいませ。

では、冬コミでお待ちしてます。


ABC

言葉に触れなくなったり
言葉からイメージを貰わなくなったりすると
突然
自分自身にログインできなくて驚く。

怖い夢でもひとつみられると
心臓は一瞬はねあがるけど
忘れたパスを思い出せるような気がするものだ。

確実に
人は
忘れる。

考えることを
年経るごと簡単に手放す。

湯たんぽを抱えるように
あっけなく漏れ出した湯の熱さにおどろくように
気づけるうちに、栄えある退行を遂げねばなるまい。

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絹山絹子

Author:絹山絹子
狸穴幼稚園の図書委員

kochairo@hotmail.com
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